学校給食と子どもたちへの食育を応援する

平成30年度台湾教育視察報告-1

熊本県玉名郡南関町立南関第四小学校         栄養教諭 寺本 ミユキ

1派遣期間    平成30年12月2日(日)~6日(木)

2派遣場所    台北市 新北市

3視察の実際 

1) 12月3日(月)新北市汐止區秀峰國民小學校、大享食育協會訪問

① 台湾の学校給食の歴史

〇実施目的

当初、遠隔地の栄養不良問題を解決することを目的としたが、近年は、共働きで、食事の準備が困難な家庭の子どもたちへ、正しい食習慣を確立することを目的としている。

〇沿革

1973 政府により給食施設の整備と栄養価等の方針が出される。

1995 全国の小学校での給食実施率61.87%

2002 学校衛生法の制定、遠隔地、山間部、離島への助成金制度が確立

2005 全国の中・小学校給食実施率61%(2088校)うち自校式1665、  公設民営423校

 

② 新北市の学校給食概要

〇供給形式

・公設自校方式:学校併設給食室、40学級以上の学校に1名栄養士配置、40 学級以下の学校では、教員が兼務

・公設調理委託方式:学校が厨房施設を設置、学校に配置された栄養士1名、民間会社の栄養士1名

・民設民営方式:委託会社の施設で給食を調理し配送、各学校で給食委員会を設置

・40学級以上の学校は、2つの委託会社から給食を受ける

〇健康食育政策

・4章+1Q計画:有機農産物、台湾優良農産物、生産と販売の証明、トレーサビリティの重視

・年2回の農業体験実施

・校内に学校菜園の設置

 

③秀峰小学校健康食育政策及び給食の実際

〇給食形態

・三菜一湯、毎週2回の果物、1回の乳製品の提供

・地元野菜の購入、4章+1Q食材の利用

〇栄養教育

・健康飲食講座、アイデア料理コンテスト、骨密度測定、新北市栄養士34名による教材の作成、家長教育、健康アンケートの実施等

〇給食の時間の様子

張校長に校内を案内していただいた。午前中で授業が終わる学年は、給食を食べずに下校していた。調理室は、ウエット方式で、長靴と長い防水エプロン、そして、色付きのゴム手袋を身に着けた調理であった。出来上がった給食を教室へ運ぶエレベーター前の一時的な保管場所は、人の出入りが自由にでき、学校職員が、食缶のふたを開けて覗き込んでいた。

教室の配膳は、家庭より持参した食器と箸、スプーンを使っていた。器の数が少ないことが関係してか、配缶された給食量の半分は、配られないままになっていた。工夫された給食が無駄になってしまうことが、とても残念に感じた。

校内には、野菜畑や実がなる木が植えてあり体験活動を活かした食育を推進している様子がうかがえた。

④大享食育協會訪問

〇協會の活動

・富邦財団が基金を出し、台湾の学校給食を支援している。

・2015.12の学校衛生法23条(学校給食における遺伝子組み換え食材の使用を禁止する条例)の改正に尽力

・学校給食大会(学校給食調理コンクール)の開催

・学校給食22プロジェクト:台湾22県の食の安全問題、食農教育、環境教育の課題を解決する活動

 

2) 12月4日(火)民設民営給食施設の統鮮美食股份有限公司、江翠小、教育省教育部國民及學前教育署訪問

①民設民営給食施設の統鮮美食の概要

〇3年前にHACCP基準の施設に改修、86000食対応施設

〇栄養士9名、厨房師14名、食品技師、検査技師、衛生管理員など185名が勤務

〇小学校8か所、中学校40か所、計48か所に40000食を供給

〇職員の健康管理検診や衛生管理研修を定期的に実施

〇食品の安全性の確認検査は、毎食ごとに二酸化炭素、残留農薬、黄麹毒素等を試薬により検出。保存食の採取

〇多くの職員が同じ基準で調理できるよう、各種の写真表示

〇学校衛生法及び栄養基準に基づいた食事の計画と受配校への予定献立表の提示

②統鮮美食の受配校 江翠國民小學校訪問

〇給食は自由選択

1校に40クラス以上ある大規模な学校では、2か所の給食委託業者から、給食を受配するシステムである。月ごとに出される献立表をもとに、どちらの業者の給食を食べるかをクラスごとに決定する。保護者は、子どもの嗜好に合った方を選択する傾向にある。必ず給食を食べなければならないのではなく、家庭からの弁当持参やファストフードを給食時間に届ける保護者もいる。

〇給食配膳の様子

児童は、食器とお箸、スプーンを自宅より持参する。ご飯の上におかずを4品盛り合わせるので、ご飯は、配缶量の半分くらいしか配食されず、その他のおかず類も同様で、特にスープについては、飲みたい児童だけがつぎにいっていた。しかも、当日は大きなメロンパンが一人に1個ずつ配られたので、とても一食分の給食とは考えにくい量であった。

おかわりをする子ども用の給食が置かれている部屋には、統鮮美食の給食と別の業者の給食も一緒に並べてあった。こちらも同じように、イチゴクリームがはさんである菓子パンが置いてあった。残った物は、持ち帰らせるという話を聞いた。

③教育省教育部國民及學前教育署訪問

〇台湾の学校給食の現状と課題及び展望について

學校衛生科の邱科長、推動学校午餐専案辧公室の盛教授のお話によると、台湾の学校給食は、少子化や過疎化のあおりを受け、多くの問題を抱えている。給食費は、保護者が100%負担していて、公費補助はないので、児童数が少ない学校給食の経営は、厳しい状態にある。一定基準の給食が提供できるよう、法整備をしてはとの田中理事長の勧めに対しても、各課との調整が必要であり、50年は無理であろうという回答であった。

3) 12月5日(水)台北市立育成高級中学訪問、学校午餐台日交流会

①育成高級中学校

〇生徒数2000人、9年の義務教育を卒業した日本でいう大学進学を考えている生徒が通う高校である。特質、才能を生かしてエリートになることを学校の目標に据えている。

〇食に関する課題

・体格面で、普通58%、肥満14%、軽度肥満15%、痩身13%という現状

・一日3食を外食に頼っている。

〇健康教育の実践事例

・生徒、教職員、保護者対象の栄養講座の実施

・野外活動、遠歩体験、調理実習やボランティア活動等の実施

・食事の栄養価計算

・豆腐づくり

・栄養個別相談や健康教育カリキュラムを作成している。

〇学食の健全化(公設民営、宮保王受託)

・生徒数は2000名だが、学食の利用者は、現在、朝食300人、昼食600人である。健全経営をするためには、食堂の環境整備が必要なことから、食堂を改修し、生徒にとって魅力的なものとなるよう取り組まれていた。

・一般食は一食55元(=日本220円)特別食、麺給食は、一食80元(=日本320円)であるが、特別食、麺給食を多くの生徒が選択していた。

・当日の給食は、韓国料理とみそラーメンが選択性になっていた。大盛りは、自由にできるようで、男子生徒が十分に満足する給食であった。また、ラーメンには、青菜のソテーが添えられており、野菜不足を補える工夫がされていた。

・使用している食器は、コーン樹脂製で持ち運びしやすいものであった。

②学校午餐台日交流会

〇日本の学校給食について、田中理事長の講演

学校給食の歴史から学校給食法制定の過程、学校給食を中心とした食育の推進について講演した。第二次世界大戦後、脱脂粉乳が子ども達の体位を大きく改善させたことを、貴重な写真からはっきりを確認することができた。そして、日本の教育成果を上げるため、学校給食がとても大事であり、1954年に学校給食法の制定により、全国同じ法律のもとで実施できるようになったことを学んだ。お話を聞きながら、自分が身を置いている環境が整っていることに感謝し、そして、日本の給食が持つ教育力の大きさに改めて気づかされた。

食に関する指導の実例発表については、高橋先生のアイデアがあり、バランスがとれた食事=○というまとめができた。台湾の栄養士の方々が、にこやかな笑顔で見守って下さったことが印象的だった。

4 まとめ 

台湾の学校給食は、20年ほど前にまとめられた学校衛生法により実施されている。栄養管理については、具体的数値が明記されてはいるものの、20年間変更や見直しが行われていないようであった。栄養管理を行う栄養士は、40クラス以上の大規模学校にのみ1名配置されている。

給食の内容については、週に2回以上の果物、牛乳は月に1回提供しており、副菜の品数や青菜料理の多さなどが特徴的であった。食事量については、牛乳がない分、主食が多くなっているように思えた。また、副食の品数が多く、毎回に青菜の炒め物などが使われていることや、魚料理が少ないことなどが日本の給食との違いである。

給食時間については、日本が教育活動の一環として捉えているのに対し、台湾では、昼食の時間であり、給食を食育と認識していないと感じた。

また、中国圏では、食べ残すくらいの食事量の提供が食文化であり、丁度良い食事の量の提供が難しいことが大量の残量に繋がっていると考えられる。それは二日目に訪問した学校や給食センターで、大量の盛り残しがあった理由が分かった。教育として、学校給食が実施されるのであれば、このような文化から、切り離すことができ、適量の算出や残食量の見極めができるのではないかと思った。

栄養士が、学校ごと、地域ごとでグループをつくり、児童生徒の食教育の媒体を数多く作成されていることが分かり、この姿は私自身の励みとなった。

 

5 児童生徒への食に関する指導に活かす試み 

私は南関町の小学校4校と中学校1校へ給食を配食している。勤務校は週2回、受配校へは週1回の割合で、給食の時間において食に関する指導を行っている。今回の学びを児童生徒へどのように伝えるかを計画し実践してみた。

 

1) 指導内容

①外国の食文化をしろう~台湾の給食を知り、その違いや良さに気づく。~(小学高学年、中学対象)

過程 学習活動 指導上の留意点 資料
導入

 

1どこの国の給食か予想する。 ○今日の給食と比較させる。

○使われている食材に目を向けさせ、予想させる。

台湾の給食の写真
 

 

 

展開

 

 

 

2台湾と日本の給食の違いを考える。

・牛乳がない。

・おかずの品数が多い。

・炒め物が多い。

・汁に醤油が使ってなさそう。

・ごはんは同じ。

3違いがある理由を考える。

 

○同じところ、違うところを自由に発言させる。

 

 

 

 

○台湾の気候の特徴から理由を考えさせる。

給食
まとめ 4台湾の給食の良さに気づく。 ○違いや特徴が食文化であること、日本の給食と同じように台湾の給食も健康を願った食事であることを伝える。

 

6 終わりに 

海外未経験の私は、背伸びして出て行った。長年日本の学校給食に携わり、整理された決まりの中で給食を実施し、児童生徒と関わりを持ってきたが、私たちにとって当たり前のことが、諸外国から見れば、非常に優れたものであることを実感することが出来た。また、日頃児童生徒、そして保護者と関わる中で、今、家庭教育において、「食」に関わる生活力の育成が、疎かになっている実態がある。加えて、家庭格差も生じている。しかし、今回の視察に参加したことで、食の力が、とても重要であるという考えを強く持ち、自分ができることを探る機会となった。食の外部化が進んでいる台湾社会の様子を見ることで、教育を支えるのは、食の持つ力であると改めて感じ、子どもたちの生活を支える根幹となる食の力を学齢期に身につけさせたいと強く考えた。

宮保王の高嘉鴻さん、MIZUNOGI有限会社の李偉銘さん、台湾サラヤの方々を始め、多くの方々のお力添えがあり、今回の貴重な体験をさせていただくことができました。また、チーム学校給食&食育の田中理事長を始め、理事、会員の皆様方に今回の学びの機会をいただいたことに感謝いたします。ありがとうございました。幸せな時間でした。