学校給食と子どもたちへの食育を応援する

平成30年度 台湾教育視察報告-2

長野県須坂市学校給食センター 栄養教諭  高橋 和子

派遣場所 台湾台北市  派遣期間 平成30年12月2日~6日

1 視察内容及び考察

台湾基本情報

・正式国名 中華民国(台湾)

・面積   約3万6000㎢

・人口   2357万人(2017.12月)

・首都   台北市

・貨幣価値 1台湾ドル(3.51円前後)

 

 

1)教育

学校制度 6・3・3・4制
義務教育期間 6歳から18歳

(国民学校1年生

~高級中学校3年生)

学校年度 8月1日~7月31日
学期制

(2学期)

上学期 8月1日~1月31日

下学期 2月1日~7月31日

就学年齢基準 8月31日までに満6歳になった者が、同年の9月1日に入学
給食費 45~60台湾元/1食

 

市汐區秀峰國民小學(公立小学校)

今年度初めて実施された「台湾学校給食大会」の優勝校にて、懇談と学校見学及び給食試食を行った。

 

児童

クラス数

2126名 普通班70班

幼児班4班及び資源班2班(特別支援)   計76班

 

給食関係

 

70班+東山國小6班=2140食

榮養師1名、全職人5名(午餐厨房厨)、他 計時人員2名、計時送餐人員2名

≪懇談内容の抜粋≫

・栄養士の配置状況:40クラスに1名の配置

・献立を作成するうえで、教育部(台湾における文部科学省)及び衛生福利部が決定したものを参考にする。

・食品安全の事故があり政府機関が政策を考えている。

・食の安全には、保護者からの不安もあり、使用した食材をデータにアップしている。

・市内栄養士が教材を作成し、クラウドにアップして共有している。

・ダンス等を活用した食育イベントの実施

学校見学では、幼児班のお店屋さんごっこの様子を見た。掲示物の「好きな食べ物の絵」では、ハンバーガー等のファーストフードが多く描かれ、外食を中心とする台湾の食生活の様子がうかがえた。

校内には畑があり、野菜などの成長の観察や給食にとりいれる等の工夫がされていた。給食用厨房には、最新のスチームコンベクションオーブン等が設置されているが、食器を洗浄する施設はない。食器はスープカップと丼のような容器を家庭から持参し、ご飯を盛った上におかずをのせて食べていた。

関係者だけではなく、新北市の学校栄養士懇談会には新北市の栄養士34名中7名が出席した。そこでは、給食内容だけではなく台湾の栄養士の勤務体制が話題になった。栄養士の兼務状況、使用食品の安全性を周知するための食材登録がシステム化しており、その入力にかなりの時間を費やすこと、民間委託制度も多く導入されている等の現状もあり、日本の制度や仕組みについての質問が多く上がった。

② 大享食育協會  (FUBON富邦財團法人基金會)

「学校給食22」は、富邦文教基金會の学校給食食材管理プロジェクトが発信した企画で、台湾全国22県市学校内の飲食安全、食農教育や環境教育等について推進している。他にも、学校給食を通した国際交流や台湾学校給食大会の開催等に関わるなど、台湾の学校給食をより向上させることに取り組んでいる。今後、よりよい活動を行うための意見交換をした。

 

③ 美食股份有限公司

台湾北部最大の民間給食工場として、最新の厨房施設でHACCPに基づいた衛生管理を行っている。

部門・人員 5部門4課28チーム 185名
面積・食数 3200坪、最大86000食可能
実施数 学校数48  40000食

概要説明後に施設内を見学した。カット野菜を多く使用しているため下処理という考え方はなく、全自動の野菜洗浄機を使用していた。真空で鶏肉に下味をつける機械、ご飯を炊くための大型蒸し器等が設置されていた。また、食器を回収洗浄という作業がないため、学校配送したケース等を洗浄するための小さな洗浄室が設置されていた。

保護者は、原材料の安全性には関心が高く、調理場内に理化学検査室があった。

施設見学後、配送先の江翠國民小学を訪問し給食の様子を見学した。すべての児童が給食を食べるシステムではないため、家庭からの弁当や、ファーストフードのハンバーガーを持参している子どもいた。当日はみそ汁だったが、大半の子どもたちは盛りつけていない様子であり、給食指導の充実が課題と感じた。

40学級以上の学校では、複数の民間委託業者から、給食を授配するシステムになっていて、クラス単位で各業者の予定献立を比較して選ぶことができる。そのため、肉料理が多くなる傾向にあるそうだ。クラス内での盛り残しや給食時に配膳されないパンがあるなど、給食の作り手側の思いと学校側の思いには差があるように感じた。

④ 教育部國民及學前教育署 (政府機関)(教育署 台北事務所)

學校衛生科の邱科長、推動学校午餐専案辨公室の盛教授との懇談を行った。

 

懇談の内容

・給食費は100%保護者負担であり、少子化、過疎化で学校給食の経営は苦しい。

・給食費は小学校:1食53元(約220円)

 

 

田中延子代表からは、「栄養士の配置基準」や、学校給食法のような法の整備、給食指導のマニュアル化、栄養士の負担軽減について提案をした。学校給食法の整備に関しては、他の部局との調整があり難しいという返答があった。

 

台北市立育成高級中學(公立高校)

公立高校の学食を民間委託業者:宮保王(Kung PaoBowl)が運営しており、食堂の環境整備も含め、魅力ある給食の提供に取り組んでいた。学校には公務員の栄養士が在籍し、献立作成や様々な栄養教育を実施していた。

 

⑥ 学校給食台日交流会(会場:台北市立育成高級中學)

田中延子代表の「日本の学校給食を学ぶ」講演と栄養教諭の食に関する指導の実演を行った。地元の栄養士、生産関係、大学関係、政府機関、報道機関等約100名が参加した。

その後のディスカッションには多くの質問があったが、特に、日本の栄養教諭制度について興味関心が高いことを感じた。

⑦ 考察

台湾の栄養士の配置基準は、40クラス以上の学校に1名で、40クラスに満たない学校は教員が学校給食の管理を行っている。

保護者の食の安全への不安は大きく、トレーサビリティが丁寧に実施されているが、その煩雑さは栄養士の仕事量を増やしている。民間業者は衛生面や食材の安全性を充実させることに力を入れていると感じた。

また、台湾には日本のような「学校給食法」がないことや、「学校衛生法」が衛生福利部の法律のため、給食指導が徹底できていない面もあり、せっかく野菜の多い給食だが、児童生徒が好きな量を食べ、盛り残しが多いという状態になっている。

給食費が全額保護者負担であり、光熱水費や人件費が含まれるために、下処理済み食材の購入や家庭からの食器の持参により、人件費の縮減を図っていた。ご飯の上にすべてのおかずを載せて食べる様子を見ると、地産地消や食品の安全性を考え、それぞれの料理を工夫している栄養士や調理員の思いは通じにくい。改めて学校給食を教材として活用し、食に関す指導を行う日本の学校給食制度の素晴らしさを実感した。

2)食・栄養

街中の家庭料理のお店、中華料理店、ホテルの朝食、毎日の学校給食に必ず出てくるのが、にんにくを効かせた「青菜炒め」である。青菜の種類は、空芯菜や地瓜菜(芋の葉)、豆苗、A菜(大陸菜)、青硬菜(小松菜)等で、青菜は学校の菜園でも栽培する身近な野菜である。とても薄味で、生で食べるサラダの代わりということである。ビタミンやカルシウム摂取や毎食食べるおかずとして、味付けも含めて見習いたい習慣だと感じた。

外食の習慣があり、朝食専門店やファーストフード等をテイクアウトすることが一般的である。両親が学校へ子どもを送っていく途中で朝食を購入して、登校後に朝食を食べるケースがあるため、新北市汐止區秀峰國小では、近隣の朝食を提供する店を検査し、優良店を推奨する取組を行っている。

コンビニエンスストアにはイートインスペースが多く取ってあり、家族連れが食事をしていた。露店で小さな饅頭(マンドウ)や肉屋の店先で肉を切り分けて売っている様子は、私の親世代の日本の様子に近いのかもしれないと感じた。

街中には「素食(ベジタリアン料理)」の看板も多く、美食股份有限公司で説明があったように、学校給食にも取り入れられていた。健康志向やポリシー、宗教上の理由により、ベジタリアンが総人口の10%ほどいるということだ。

 

)政治・経済・歴史

中華民国設立の1912年を紀元として、西暦ではなく民国暦で107年(2018年)と表記する。1972年、日本では田中角栄首相の時代に、日中国交正常化、日華平和条約破棄があり、台湾は、国際的には中国の一地方として位置付けられている。

しかし、現在でも民間の機関という名目で大使館の役割を担う組織が相互に置かれ、台湾と日本には経済的、人的な交流が続いている。

 

4)環境

トイレ事情

台北市にある超高層ビル臺北101は、地上101階建て、高さは509.2mである。東芝製のエレベーターで上層階に移動する様子は、日本のランドマークタワーやスカイツリーと変わらない。ただ、ホテルも学校も含めて、トイレのペーパーを便器に流すことはできずに、隣の馬桶というゴミ箱に入れる。これは下水管が細いからという理由のようだが、最初の2日間は、夜中にトイレに起きて、無意識に流してしまっていたが、だんだんと慣れてきた。学校のトイレの入口にある大型のトイレットペーパーからくるくると紙を取って、順番待ちをすることもできるようになった。

しかし、臺北101のレストランの夜景の見える最新の素晴らしいトイレにも、便器の脇にゴミ箱があり、やや違和感があった。

②エアコン事情

台湾は沖縄より南に位置していることや、天気予報が連日29度という予報だったため、薄手のブラウスやジャケットを多めに持参した。しかし、どの施設も寒いくらいにエアコンが効いていて、視察1日目のお昼過ぎから喉が痛み出し、帰国後も風邪の症状に悩まされた。

 

2今回の視察を通して、得たものや考えが変わった点、今後に生かしたい点

今年度の6月に、在籍する須坂市に台湾宜蘭県の教育長を団長とする「食育教育視察団」が来訪された。学校給食試食後に、学校給食の歴史や市の食育について講話し、その後の懇親会で宜蘭県栄養士2人と話をする機会があった。その折に、朝食を学校に持ち込む外食文化や、学校給食は残すほどたくさんのおかずが必要だと考える保護者の考え方について話題になった。日本の学校給食はおかずが少なくて、ご飯が多いという話題も出ていた。そのため、今回派遣していただくことが決まり、話に聞いた台湾の学校給食を学ぶことができることをとても楽しみにしていた。

最終的に一番印象に残ったことは、台湾の栄養士達も日本の私達と同じように、目の前の子ども達を思い、給食費が少ない中で健康な身体に育ってほしいと願いを込めた献立を考え、異物混入なく、食中毒をおこさないように、と考えていることだった。

しかし、その背景に日本には「学校給食法」があり、この法律によって自分たちが守られていることを改めて学んだ。学校給食事摂取基準や衛生管理基準だけではなく、栄養教諭・学校栄養職員の職務が規定されていることが大きな違いを生んでいた。

交流会で田中理事長の日本の学校給食法や栄養教諭制度についてのご講演の後、私と寺本栄養教諭が実施した低学年向けの食に関する指導を多くの参加者がスマホで撮っていた。「こんな風に栄養教諭になって食に関する指導に携わりたい」「子ども達の教育に関わりたい」と、考えていたのではないかと思う。自分たちの置かれている立場や世界一の日本の学校給食制度について肌で感じる機会になった。「当たり前のことではない」ことを周知していかなくてはいけないと感じている。

 

 

3今後、派遣される方々へのアドバイス

研修を有意義に過ごすためには、現地の歴史、学校給食事情等を調べて、確認したい部分を明確にしておくことが大切と考える。また、慣れない環境で体調を崩しやすいので、出発前は睡眠を十分に取り、体調を整えること、併せて常備薬は必ず、用意しておきたい。

 

4終わりに

今回派遣をしていただいた(特非)チーム学校給食&食育の田中延子理事長を始めとする皆さま、現地でお世話になった宮保王の執行福総経理(副社長)高嘉鴻さんとMIZUNOGI有限会社の総経理(社長)李偉銘(Alen)、そして中国サラヤの稲津総経理、現地の皆さま、快く送り出してくれた須坂市学校給食センターの皆さま、すべてに感謝申し上げます。