学校給食と子どもたちへの食育を応援する

タイ王国食育セミナー&視察報告書②

報告者:研究委員会 髙田 尚美(名古屋学芸大学)
期 間:2023.5.20(土)~2023.5.25(木)
活 動:以下の通り

Ⅰ International Seminar
「Introduction to the Japanese Way of Food Education(Shokuiku) to Thailand 」
主催:ワット・アルン・ラーチャワララーム寺院・パシフィックコンサルタンツ株式会社
場所:ワット・アルン・ラーチャワララーム寺院
日時:2023.5.23 8:00~12:00
講演:「Japanese Way of Promoting Food Education through School Lunches」
「学校給食を活用した食育の推進」
田中延子 特定非営利活動法人チーム学校給食&食育 理事長
学校給食を活用した食に関する指導の実演
高井愛莉 東京都足立区立長門小学校学校栄養職員
髙田尚美 名古屋学芸大学管理栄養学部(元栄養教諭)
講演:「Thai Culture of Food for Health & Buddhamma」
Prof. Dr. Phra Brahmapundit
発表:「Introduction to PCKK and School LunCh Center Facilities」
「Inportance of Sanitation」by Saraya
Q&A、Panel Discussion

実演内容
三色食品群の説明後、タイの料理「ガパオライス」、「ヤムウンセン」に使われている食材・牛乳について三色食品群のどれに該当するか参加者に回答してもらい、学校給食には、「主にエネルギーになる食品」、「主に体をつくる食品」、「主に体の調子を整える食品」がそろっている指導の様子を伝えました。

実演から得た知見
会場の皆さんが参加してくださったことに加え、講演後にセミナーに参加されていた方たちから、三色食品群を教える理由や学校の指導における子ども達の反応などの質問を受けるなど、学校給食が食に関する指導の教材であることに興味・関心をもっていただきました。
質問に答える中で、指導の実演に使用した三色エプロン(田中延子理事長提供)の黄・赤・緑のポケットの大きさが子どもたちに食べて欲しい量の割合であることによる効果を説明しました。意図的な教具作成の大切さを感じました。

Ⅱ 学校給食視察

1.視察内容

(1)寺院学校 ワット モーリー ローカヤーラーム
寺院担当者からの説明
・12歳からの僧になるための勉強をしている生徒と僧を合わせて約500食の給食
・使用食品は寄付されたものや朝の托鉢でいただいたものも使用するので、禁忌食品は無く、メニューは日によって違う。
・調理された料理のほか、寄付されたお菓子や飲み物も食堂のテーブルの上には並んでいる。
・栄養と衛生については、国立病院のサポートを受けている。
・衛生についての注意事項がイラスト入りで掲示してあり、調理場所も下処理の場所と調理の場所が分けられている。
・苦手な野菜を残すことなどへの指導はない。残ったものは、お金のない貧しい人たちにあげるのでもったいないことはないと説明を受ける。
・コロナ前は食堂で食べていたが、コロナ以降、各自の部屋で食べている
托鉢に使う容器に給食をもらうため、お祈りが終わると鐘がなり(11時頃)、生徒たちは食堂前に並んで待つ。
・給食の前には、僧と寄付をしてくれた人とのお祈りの時間がある。

(2)公立学校 タウィータピセク小学校
・教室やランチルームなどで、プレートに盛り付けられた給食を食べていた。
・小学校1年生の配膳は、先生や先生を目指している学生(教育実習や学習支援ボランティア)が行っていた。
・食事が出来る場所でジュースなどの飲料やウィンナーなどを売っていたり、文房具などを売っている購買部でもお菓子など売っていたりするため、給食を残して好きなものを食べている姿を多くみかけた。
・校門前の道路でも、ジュースやお菓子を販売する屋台が出ていた。
・国から牛乳8バーツ/本が提供されており、給食の時間ではなく、休み時間に提供していると説明を受けた。

 

(3)公立学校(バンコク都立学校)バンフェン国民学校
・幼稚園生・小学生・中学生合わせて約1,000人が通う大規模校である。
・朝食の予算15バーツ/人、昼食の予算25バーツ/人であり、国とバンコク都からお金が出るので、児童生徒は無料で食べられる。
・学校菜園で作った食品も給食に使用している。菜園は大規模であり、栽培部を指導する指導員もいる。
・週3回、サラダバーで野菜を提供している。ドレッシングで味付けに変化をつけるなど食べるための工夫をしており、野菜が無い日に「今日は野菜が無い」という児童生徒もいる。
・児童生徒に対し、給食について「おいしいと感じているか」、「好きですか」などのアンケートを実施している。
・2か月分のメニューがバンコク都から送られてくる。
・調理員10人、うち2人が下処理担当である。
・衛生管理に気を付けており、下処理と調理場所が分けられているほか、食材も肉 と野菜を別の場所で保管や60㎝以上の高さで取り扱う等のルールがある。
・視察の様子を報道部の小学生がカメラとビデオカメラで取材したり、学校菜園を栽
培部の中学生が案内したりと児童生徒の活発な活動の様子がみられた。
・健康教育の様子のビデオは、お菓子などの食べすぎに対する肥満防止への指導が主であった。児童生徒が選んだ食品の表示を見て、適量か考えてボックスに入れるなどの活動や実際に運動するなど実践的な指導を見ることが出来た。
・ランチルームには、日々の給食の組み合わせが壁面掲示になっており、朝食・昼食の給食を通して、食事の組み合わせを知ることができるようになっていた。

(4)私立 ファーサイ幼稚園
インターナショナルスクールでの経験を活かした幼児保育を行うため幼稚園を設立したオーナーから説明を受けた。
・私立は、保護者からの学費で経営している。100人規模の小さな幼稚園だが、コロナで現在は園児が定員より少ない状況である。
・環境を整え、活動・学習に合わせた教室を整えている。
・ランチルームも環境を大切にしている。
・食事内容も主食・主菜・副菜・果物があり、美味しいものを提供したいと考え実施している。
・飲み物は水かお茶でジュースは食事の時には飲ませない。
・個々の子供が食事を食べきることができるように、先生が子どもに合わせて配食をするようにし、子どもの様子を見ながらおかわりを配食している。
・子どもが栽培したものを給食に使えるようにプランター栽培も行っている。

 

2.視察を通して得た知見
寺院学校では、食事はお布施であり、いただいたものを分かち合って食べることを大切にしている文化であると感じた。公立学校では、政策により教育や給食の無償化がされていた。学校給食を食育の教材とし、子どもたちの食の知識や意識・食習慣変容には、タイの文化や社会慣習(学校での飲食物の販売)を理解し、共に検討・提案することが必要と感じた。

 

Ⅲ 市場・スーパー視察
・地域の方が買い物をする市場では温度管理はされておらず肉も魚も常温に置かれていた。
・スーパーマーケットでは、氷の上にならべられている魚をならべ、冷蔵している温度が見
える位置に温度計もあり温度管理されたり、売り場の店員もキャップをかぶっていたりな
ど衛生管理状態は市場とは大きく違っていた。
・どちらも魚の種類は多く、一匹まるごとで売られていた。
・肉は、様々な部位が売られているが、温度管理は魚と同様である。
・野菜・果物・香辛料も多くの種類が豊富に並べられている。
・スーパーマーケットでは、加工食品や調味料の棚などは日本と変わらない。

Ⅳ 派遣での体験から今後の活動に活かしたいこと
以前から、特定非営利活動法人チーム学校給食&食育の海外交流において、日本の学校給食制度および学校給食関係者がもつノウハウを海外へ伝えるなどの取組での海外派遣報告を読んだり聞いたりして関心をもっていました。今回、派遣を希望した理由は大きく2つあります。

1点目は、海外の方に日本の学校給食の特徴である「健康と成長に必要な食事の提供」という保健的な視点と「学校給食を活用した食育」という教育的な視点の両立の効用を理解し、社会に取り入れるための提案を行うセミナーでの講演や協議の場に参加したいと思ったことです。
JICAの保健事業で日本を訪れる海外の保健担当高官たちに日本の学校給食を紹介した経験では、学校給食が厚生労働省の管轄ではなく、文部科学省の管轄であり、学校給食を担当する管理栄養士・栄養士が教員でもあることに驚かれました。JICAの方の発表で、視察を通じて、「保健室」を作り「養護教諭」のような人材が学校に必要だと感じるようになったことを聞き、世界で実施されている保健・福祉的な学校給食が日本の学校給食制度のように教育の一環となり、世界における栄養・食の課題解決につながるための方法を知り、取り組むことができたらと考えていました。
今回、田中延子理事長の講演を聞いて、セミナーを主催されたワット・アルン・ラーチャワララーム寺院のトップマネジメントの方だけでなく、指導者の方たちが僧侶として食育を通した社会への貢献についての役割を考え実践に向けて積極的に質問されている姿をみました。講演の内容の選定や組み立てを参加者の立場や背景を考えることの大切さを学びました。講演や講義で、効果的な内容や組み立てについて活かすようにします。

2点目は、資料や論文でしか知らない海外の学校給食の現状を実際に体験し、学生の育成における日本の学校給食制度の特徴と学校給食を活用した食に関する指導に活かしたいと思ったことです。
子ども達が、食べたものが自身の身体を作り、健康や成長や日々の生活に関わっていることを理解して食品や料理を選択する能力を育成することを、日本では学校給食を教材として学習します。しかし、今回の視察で見た学校においては、給食を選択しないで他の食品を選択する姿がありました。これは、子どもが食について系統的に学習をする機会が無く、食環境に問題があるためではないかと思いました。
学校給食を食に関する指導の教材として、いつ、どのように活かしていくかとというカリキュラムの必要性を考えるとともに、食環境としての学校給食の価値と栄養教諭の必要性について、エビデンスにつながる活動・研究に取り組みたいと思います。

このような機会を与えていただいた特定非営利活動法人チーム学校給食&食育に感謝します。